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平成20年度配偶者暴力防止講演会(平成20年12月12日開催) <講演内容>
<第一部>  講演「交際相手からの暴力と法
〜自分を守るための法的対策とは〜

講師:川島志保さん(弁護士)
<第二部>  対談「デートDVとは何か
   〜キャンパスでの対応と被害者支援をめぐって〜

講師:香山リカさん(精神科医、立教大学現代心理学部映像身体学科教授)
    遠藤智子さん(NPO法人全国女性シェルターネット事務局長)


<第一部>
 講演 「交際相手からの暴力と法 〜自分を守るための法的対策とは〜」

 講師 : 川島志保さん(弁護士)



■交際相手からの暴力(デートDV)の実態

「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」(以下、「DV防止法」)の前文には、
   「配偶者からの暴力は犯罪となる行為をも含む重大な人権侵害である」
   「被害者は多くの場合女性である」
と明記されています。

「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」

しかし、DV防止法の対象となる「配偶者」には、事実婚の場合や元配偶者は含まれますが、交際相手(内縁関係に至らない恋人)からの暴力(以下、「デートDV」)は、配偶者からの暴力同様に「犯罪となる行為をも含む重大な人権侵害」であるにもかかわらず、対象になりません。この法律の及ばないデートDVが、現在とても深刻な状況になっています。

「デートDVについての意識・実態調査報告」(横浜市市民活力推進局男女共同参画推進課/対象:市内の高校生・大学生および教職員/実施:平成19年)によると、交際経験がある女性の4割がデートDVの被害を経験しています。また、教員の4割が、生徒のデートDVを見聞きしたことがあると回答しています。

「デートDVについての意識・実態調査報告書」

いわゆる刑罰法規にふれるような身体への暴行や傷害は、DVの一部にすぎません。身体的暴力のほか、精神的・経済的・社会的・性的暴力などがあり、DVは長期にわたって反復され、故意に行われる人格的利益の侵害なのです。 今の10代、20代の若年層におけるDVの特徴として、携帯電話によるものがたいへん増えています。履歴を勝手に見る、無断でアドレスを削除する、一日に何度も電話やメールをして、すぐに電話に出ない・メールに返信しないと怒るなどの行為がみられます。常に行動を監視され、交友関係を断たれるなど、心理的に拘束し、支配するのです。
そのほか、性関係の強要、避妊に協力しないといった性的暴力もみられます。

■デートDVから自分を守るために

では、デートDVから自分を守るための法的対策としては何があるのか。 いまところ、「ストーカー行為等の規制等に関する法律(ストーカー規制法)」を利用するのが有効です。この法律は平成11年に起こった「桶川ストーカー殺人事件」を背景に制定された議員立法です。ストーカー行為(つきまとい等を反復して行うこと)に対し、警察署長等が「警告」し、その警告に従わない者は公安委員会が罰則付の「禁止命令」を命じるというものです。ただ、この法律は、直接的な暴力には対応しない、恋愛感情がなければ認められないなどの縛りがあり、万全ではありません。

ストーカー行為等の規制等に関する法律

また、伝統的な男らしさ、女らしさの偏見をなくしていくことも必要です。会話を交わすことで男女が相互に「人間」としての理解を深め、交際相手からの暴力には「嫌!」といえるような対等な関係をもつことが重要だと思います。

■デートDVの予防・啓発の必要性

交際相手の行為がDVだと気づかないまま結婚すると、結婚後もさらにDVが続いていきます。その子どもは、家庭の中でDVを目撃して育つことになるのです。これは児童虐待にあたり、子どもの成長に深刻な影響を与えることになります。

児童虐待の防止等に関する法律

先ほどの横浜市の調査においても、生徒の中にデートDVが起こる背景として、8割の教員が「家庭環境(DVや虐待)」をあげており、以下、「性・暴力表現を扱ったメディアの情報」「固定的な性別役割分担意識(男らしさ女らしさ)」「女性の人権の軽視」の順に多くなっています。
また、予防啓発が必要な時期として、教員の約半数が「中学生以下」と回答しています。

こうした面からも、早い時期からのデートDVの予防・啓発が必要です。
DV防止法の中に予防教育プログラムを位置づけるなど、幼い時期からの予防への取り組みが必要です。

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<第二部>
 対談 「デートDVとは何か〜キャンパスでの対応と被害者支援をめぐって〜」

 講師 : 香山リカさん(精神科医、立教大学現代心理学部映像身体学科教授)
       遠藤智子さん(NPO法人全国女性シェルターネット事務局長)


香山リカさん

■現代の若者文化と恋愛意識

いまの元気で若い女性たちが、なぜデートDVの被害にあってしまうのでしょうか。
私自身もデートDVというものを知らなかったときは、
 「結婚しているわけでもないのに自分にデメリットになるような男となぜ別れないのか?」
 「この人はちょっとやばいかなと思ったらすぐに別れられるんじゃないのか?」
 「そもそもなんでこんな男が好きなの?」
と思っていました。
ところが、現実には交際相手から暴力を受けても別れられない、その理由を考えていきたいと思います。

まずは、10代や20代の学生にとって、彼氏がいるかいないかがとても大きな問題であるということです。例えば、クリスマスイブまでに恋人ができるだろうかと、9月ごろからあせっている学生もいます。学業よりも彼氏をみつけることが最優先事項になっています。極端な言い方ですが、「彼氏がいないよりはどんな男でもいたほうがましだ」という気持ちになってしまいます。そうなると信頼できる人なのかを見極める余裕はないわけです。

次に、「自信のなさからくる自己肯定感の欠落」があります。それは成績が優秀だったり、キャリア志向だったり、いわゆる一流大学といわれる女子大生ほど顕著にみられ、恋愛に対してもろい、あるいは彼氏がいないことにコンプレックスを持つ傾向にあります。また、高学歴・高キャリアなのに恋人がいないとなると、高学歴・高キャリアであることが無価値だという否定的な価値観を持つようにもなります。そんなときに交際相手から
 「お前はバカな女だ」とか
 「お前はなにもわかっていない」
などといわれると、
 「ほんとうに私を理解しているのは彼しかいない」
と、なんとも矛盾したことになってしまいます。

また、これは新しいかたちのデートDVだと思うのですが、「私はあなたの彼女なの?」と聞いても、相手ははっきり恋人だとは言ってくれない。「遊ばれているのかな」と不安になっても、彼を失うことが怖くてズルズルと関係を続けてしまう。そんな関係を続けていると、自尊心が低下してしまい、アイデンティティを失ってしまうという学生も少なくありません。

さらに、日本の昔ながらの「女は男のものである」といった価値観が根強く残っています。夫につくす妻のような生き方が、理想的な女性像としてあるのではないでしょうか。それに少子化問題が取りざたされるようになって、結婚して子どもを育てることが最終的な幸せのゴールだという価値観も広まりつつあります。

■デートDVが発生する背景

デートDVが発生する背景には、テレビや雑誌などのメディアの責任もあります。「モテ」「負け組」「婚活」といった言葉に象徴されるように、女性は男性に好かれるためにどう演出したらいいかということをテーマにした情報が氾濫しています。
いまの学生たちに「外見だけでなく内面を磨いて」といったら、失笑されてしまうでしょう。

また、コミックやドラマでも、これはデートDVではないかというような描き方をする作品が蔓延しています。それらは無意識のうちにすりこまれ、価値観まで変えてしまうことがあります。ただ、TVドラマ『ラストフレンズ』は、若い人たちがデートDVを考えるきっかけになったのではないでしょうか。

このように女性の生き方や価値観などが複雑に絡み合って、デートDVという結果を招いているのではないかと考えています。

■デートDVへの対処

多くの被害者たちは、DVから逃れることができても、その後に「恋愛を失ってしまった」という喪失感に襲われ、うつ病や不眠症にかかることがあります。身体的あるいは精神的なダメージを受けているわけですから、薬物投与を含めた医学的ケアあるいはカウンセリングによる心理的ケアなどの治療は必要になってきます。ただ、若年層におけるデートDVの場合には、これからの恋愛感や生き方といった倫理観までも踏み込んだケアをしていかなければ、おそらく繰り返してしまうと思います。しかし、そこまでいくと医療の領域を超えてしまいますから、医師によっては恋愛や生き方の選択は自由だという考えの人もいるわけであり、とても難しいところです。

再びデートDVを受けないためにも、女性たちには、家族、友人、仕事、趣味、ボランティアなど、あらゆるものに自分の価値をみいだして自立した女性として生きていってほしいと思います。

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遠藤智子さん

■DV、それは愛を装う

暴力をふるう人は
 「俺を愛していたらいうことをきくのは当然だ」
 「俺はお前のためにやっているんだ」
と、自分に都合のいい理由をつけながら、相手が自分に従わないと怒ったり、腹を立てて物を壊したりします。

一方、暴力を受ける人は
 「好きだからがまんする」
 「彼が暴力を振るうのは私が悪い」
などと考えがちです。

こうした暴力行為や束縛を愛情表現だと思わされてしまう場合が多く、私たちは「DV、それは愛を装う」と呼んでいます。10代、20代の若年層にとってだけではありませんが、若い層でも暴力が深刻になっていることが報告されています。

デートDV・DVとは、親密な関係における単なるケンカではなく、男女の不対等な力関係における、支配によるものなのです。また、いつでも、どこでも、だれにでも起こり得る暴力被害であり、決して他人事ではありません。

■デートDVへの対応

デートDVでは避妊をしないといった性的暴力がよくあります。女子大生などによく見られるケースでは、妊娠してしまい相手に相談すると「お前はどうしたいんだ」と聞かれ、産みたいと答えれば「お前に育てられるわけがない、バカじゃないか」といわれ、手術をすると答えれば「俺の子どもを殺すのか」といわれ、どうすることもできなくなり、大学のカウンセラーなどに相談する。ところが、交際相手からの暴力はDV防止法の対象にならないので、公的機関での支援は受けられず、最終的に民間シェルターを頼らざるをえない。被害は深刻なことも多く、ふるえが止まらない、食事ができない、眠れないという状態にもなってしまう。学生の場合でも、一緒に住んでいなくても授業やアパートは知られていますから暴力から逃れることは大変に難しい。結局、加害者と離れるためには退学せざるを得ないことも多いのです。

デートDVに関する相談は、被害当事者ではなく、両親や友人、教職員たちが相談窓口に訪れるケースが多いのが現状です。それは被害当時者が「好きで付き合っているのだから」と、自分がDVを受けているということを自覚していないことが多いからです。

「男女間における暴力に関する調査」(内閣府男女共同参画局/実施:平成18年)によると、交際相手からDV被害を受けたことがある女性のなかで、「友人・知人に相談した53.4%」「家族や親戚に相談した13.6%」となるほか、「だれにも相談しなかった39.0%」となります。相談しなかった理由としては「相談するほどのことではない」「自分にも悪いところがある」などがあります。

「男女間における暴力に関する調査」

■DVから逃れるには

DVから逃れるには、「早期発見」と「周囲の理解」がとても大切です。ぜひとも周囲が気づいてあげてほしいと思います。

例えば、不審なアザがある、ケガやヤケドをよくするなどの異変に気づいたら「困っていることはない?」と声をかけてあげてください。そして、家族や適切な専門機関に相談するよう伝えてください。専門機関に一緒に行ってあげると心強いかもしれません。ただ注意してほしいのは、正義感から加害者に直接苦情をいうなどのアクションをとると、かえって状況を悪化させるおそれがあるということです。

■予防・啓発への取り組みと被害者支援

現在、少しずつ全国の教育現場でもDVの予防・啓発への取り組みが始まっています。岡山、長崎、青森県などの中学・高校の教育現場では、「男女が対等なコミュニケーションをとるには」「暴力とはどういうものか」といった内容の授業を行っています。また、大妻女子大学のゼミでは、学生たちが、デートDVを紹介するCMを作成しました。

加害者・被害者を生み出さないためにも、あらゆる教育の機会を通じて、男女平等教育・非暴力教育をしていく必要があります。韓国では、昨年から学校教育で「予防教育」が義務化されました。日本も早急に対策を立てていく必要があります。

「全国女性シェルターネット」では、暴力から逃げてくるDV被害者を保護して、相談から自立までをサポートし、女性への暴力を根絶する活動をしています。また、経済的自立が困難である女性の生活再建を支援する「DV被害当事者サポートPMJ基金」を設立し、社会的支援を行っています。

「DV被害当事者サポートPMJ基金」

■さいごに

もし、あなたが「自分はデートDVを受けているのかな」と思ったら、一人で悩まずに家族や友人、そして専門機関(高校生なら保健室の先生、大学生なら「セクハラ窓口」、各地域の男女平等参画センターの相談室など)に相談しましょう。そして、なぜ自分に暴力を振るうような人、緊張しなければ付け合えない人のことを好きだと思うのか、冷静になって自身を深く見つめ直すことも大切ですね。
(おわり)

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